奈良県の大和郡山市で上映中の映画「茜色の約束 サンバde金魚」を観た。
・・・といっても、奈良以外にお住まいの方にはあまりなじみがないかもしれないが、大和郡山は金魚の伝統養殖産業で有名な町で、金魚をモチーフにした映画が制作されたということで、奈良では結構話題になっている。
大和郡山は奈良県最大の工業地域でもあって、そこで働く(すぐに契約満了してしまうけれど)日系ブラジル人の母親と暮らす日本語が話せない少年リカルド、彼の同級生で買収されそうな金魚養殖場の娘・花子を中心にストーリーが展開する。
リカルドが古墳(古墳っていうのが奈良っぽい!)で見つけた青く輝く金魚を金魚パークなるテーマパーク開催の目玉にしようとする強欲な市長。このテーマパークのために花子の父の養殖場は買収の危機にある。青い金魚をめぐってリカルドと花子が守ろうとする金魚伝説と欲に目がくらんだ大人たちの対比が物語の中心という感じ。
全体にテンポが良く、楽しめる映画。大和郡山の町並みや、金魚の映像など視覚的にも楽しい。ただ、ちょっと残念だったのが「伝説」をベースにしたファンタジーなのに、どうしても映像がファンタジックに感じられないところ。CGの技術がこれほど進歩しているのだから、せめてもう一息・・・と思ってしまうのは、贅沢なのだろうか。
また、この町の現在を象徴する様々なキーワード(金魚養殖/工業地域/外国人労働者/古墳・・・・)が散りばめられていて、その中心に「伝説」があるのだけれど、うまく「伝説」がキーワードをつないでいるかと言うと、やはりちょっとつながりきれていないようにも感じられる。日系ブラジル人からサンバのつながりも、もう少し説得的だと見やすいように思えた。
とはいえ、全国各地でご当地映画が制作されている現在、単に地元愛と人のつながり、愛と友情・・・という要素だけでなく、ファンタジーの世界に挑んでいる点は、私はとても面白いと思った。少なくとも、誰かが不治の病になったり、亡くなったりすることで無理やり「感動」を挿入するご当地映画に比べれば、ずっと健全である。(あえてタイトルは書かないけれど・・・)
奈良のご当地モノって言えば、やはり河瀬直美で、彼女の作品の映像としての完成度や空気感、物語の重層性は一級品だと思うけれど、こういう三つ星映画は私の場合、気楽には見られない。それにご本人の意志はわからないけれど、「THEニッポン映画」とか「世界のカワセ」とかになっちゃうのが現実。それに対して、「茜色の約束」は、とてもポジティブな意味でB級ご当地映画として楽しめるように思う。